酔雲庵


酔中花

井野酔雲





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 山の朝。

 小鳥たちのさえずり。

 山の小道を子犬を連れて散歩している麗子。

子犬が急に草むらの方へ走り出す。

「どこ行くの? 待って!」

 麗子は子犬の後を追って行く。

 子犬は倒れている昭雄の側まで走って来て、キャンキャンと鳴く。

 麗子、走って来て昭雄を見る。

「誰かしら? どうしたのかしら?」

 麗子、昭雄を揺り起こす。

「大丈夫ですか? しっかりして下さい」

 昭雄、目を開ける。

「山の精‥‥‥」

「えっ?」

 昭雄は目を覚まして麗子を見る。

「あなたは人間ですか?」

「えっ? 人間ですけど‥‥‥」

「僕はどうして、こんな所にいるんでしょう?」

「倒れていましたよ」

「何か、変な夢を見ていたような気がする」

「さっき、山の精って言ってましたけど」

「あなたによく似た人が夢に出て来たようだけど‥‥‥よく覚えてない」

「大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫です」

「わたしの家、すぐ近くですから休んでいきません?」

「ええ、どうも‥‥‥」

 昭雄、立ち上がる。ちょっとフラつく。

「本当に大丈夫ですか?」

「頭がガンガンするんですよ‥‥‥でも、大丈夫です」

「うちで少し休むといいわ」

「どうもすみません」

 麗子は子犬を抱いて歩いて行く。昭雄はついて行く。



酔中画2-Y009




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 広い農家の一室で、昭雄は布団の中で寝ている。

 額の上に濡れた手拭いが載せてある。

 そばに座って昭雄を見守っている麗子。

 目を覚ます昭雄。

「目が覚めました?」

「ええ」

「頭の具合はどうですか?」

「ええ、もうすっかり治ったみたいです」

「よかったですね」

「迷惑かけて、どうもすみません」

「いいえ、あの、おなか、すいてません?」

「ええ、実はすいてるみたいです」

「用意してきます」

「あの、僕は石山昭雄といいます。あなたは?」

「砂川麗子です」

「麗子さんですか‥‥‥」

 昭雄はどこかで聞いた事のある名前だと思うが、はっきり思い出せない。

 麗子は出て行く。




癒しの柴犬赤ちゃんわんこ 3匹




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