酔雲庵


尚巴志伝

井野酔雲







勝連無残




 年が明けて永楽(えいらく)三年(一四〇五年)の正月の末、シンゴとクルシの船が馬天浜に来た。サムとクルーが無事にヤマトゥ旅から帰って来た。

 サムもクルーも目の色が違っていた。自分がやるべき事をはっきりと見つけて来たような感じだった。末っ子で、何となく頼りなかったクルーは、体格が一回りも大きくなって(たくま)しくなっていた。

「ただ今、無事に戻りました」

 クルーはサハチに挨拶をすると嬉しそうに笑った。

「驚く事ばかりでしたが、本当にいい旅でした。博多にも行きました。人が大勢いて凄い所でした。一文字屋の船に乗って、備前(びぜん)の国(岡山県東南部)にも行きました」

「備前の国か‥‥‥一文字屋の本拠地だな。話には聞いた事がある。そうか、備前の国まで行ってきたのか」

 サハチは笑いながらうなづくと、「今晩、旅の話をじっくりと聞かせてくれ」とクルーの肩をたたいた。

「無事に帰って来たぜ」とサムはニヤッと笑った。

「何かを見つけたようだな」とサハチは聞いた。

「わかるか」と言って、サムは照れくさそうに笑うと、「本当に行ってきてよかった。改めて、お礼を言う」とサハチに頭を下げた。

「なに、お礼を言うのはこっちの方さ。クルーを守ってくれたんだからな」

「そんな事はない。クルーはしっかりしているよ。俺は末っ子だから、兄貴たちみたいにグスクは守れない。船頭(しんどぅー)になって、お前のために、ヤマトゥや朝鮮(チョソン)、明の国まで行って交易をするんだと言っていたよ」

「クルーがそんな事を言ったのか‥‥‥」

 サハチもクルーには船頭になってもらいたいと思っていた。自分からそう決心してくれれば、本当にありがたかった。

「俺は子供の頃、親父からヤマトゥの話をよく聞いていたんだ」とサムは言った。

「親父はヤマトゥに行くはずだったけど、戦が起こって今帰仁を追い出され、ヤマトゥには行けなかったと悔しそうに言っていた。俺は親父が果たせなかった夢を、いつか実現させようと密かに思っていたんだ。俺の夢はかなった。本当にありがとう」

 サハチは笑うと、「今晩、帰国祝いの宴をやるからな。かみさんと親父さん(クマヌ)を連れて来いよ」と言った。

 鉄を奥間(うくま)に持って行ってくれたかとシンゴに聞いたら、鉄はキラマの島で下ろし、あとはヒューガ殿に任せたと言った。

「それでいい」とサハチはうなづいて、お礼を言った。

 あとで考えたら、奥間まで鉄を持って行ったら、鉄を下ろしたあと、そこに積むべき荷物がなかった。キラマで下ろせば、浮島で取り引きをして、空いた所を埋める事ができた。

 二月に母方の祖母が亡くなった。先代の美里之子(んざとぅぬしぃ)の妻はウニタキの義母だった。サハチは知らなかったが、ウニタキは何かと面倒を見ていたようだった。幼い頃、母親を亡くしたウニタキは、チルーの母親を自分の母親のように思って大切にしていた。亡くなる前、チルーに、いい人と巡り会えてよかったねと嬉しそうに言ったという。ウニタキは倒れたとの知らせを受けると、すぐに飛んで行き、チルーと一緒に、ずっと付き添っていた。

 祖母は倒れてから三日後に静かに息を引き取った。六十七歳だった。ウニタキが隠れて泣いているのを、サハチは声を掛けずに見守っていた。

 それからしばらくして、山南王のシタルーから婚礼の招待状が届いた。中グスクの若按司の娘が、シタルーの次男に嫁いで来るという。

 サハチの娘がシタルーの長男に嫁いでいるので、断るわけにはいかないが、一応、東方(あがりかた)の按司たちの意見を聞かなければならなかった。サハチは玉グスクに使者を送った。玉グスクに来てくれと言う返事なので、大グスク按司と一緒に玉グスクへ向かった。大グスクにも婚礼を知らせる使者が来たという。

 玉グスクに集まった全員に招待状は届いていた。

「次男の婚礼なのに、随分と大げさにやるもんじゃのう」と皮肉っぽく知念(ちにん)按司が言った。

「もしかしたら、山南王は南部の按司、全員を招待したのかもしれん。不安定な今の状況を一つにまとめようと思っているのかもしれんな」と玉グスク按司が顎髭(あごひげ)を撫でながら言った。

 玉グスク按司の顎髭は、知らないうちに、ほとんど白くなっていた。まだ六十前のはずなのに、何だか、急に年を取ったように思えた。

「そうかもしれんが、どうして中グスクから嫁をもらうんじゃ。南部をまとめるなら、南部の按司から嫁をもらえばいい」と垣花(かきぬはな)按司が不満そうな顔をして言った。

 確かに、垣花按司の言う通りだった。中グスク按司の妻は察度の娘なので、中グスク按司はシタルーの義兄だった。シタルーは中グスクと手を結んで、浦添を倒すつもりなのだろうかと、ふと思った。もしかしたら、シタルーは中山王を倒して、琉球を統一しようと考えているのかもしれなかった。そうなると、シタルーも首里(すい)のグスクを狙っている事になる。シタルーに先を越されてはならないとサハチは思った。

「それは多分、中グスクの方から言って来たんじゃろう」と玉グスク按司が言った。

「中グスクは以前、山南王に娘を嫁がせている。しかし、その山南王は高麗(こーれー)に逃げて行ってしまった。それで、改めて、若按司の娘を嫁がせる事にしたんじゃろう」

「山南王は中山王も呼んでいるのか」と知念按司が糸数(いちかじ)按司(上間(うぃーま)按司)に聞いた。

「中山王にも婚礼の事は伝えたようですが、招待はしておりません。中山王は中グスクの招待を受けるようです」

「成程。中部の按司は中グスクに集まるという事か」

 シタルーが何を考えているにせよ、断る事はできなかった。全員、出席するという事に決まった。

 サハチは島添大里(しましいうふざとぅ)に帰ると、八重瀬(えーじ)按司のタブチにも使者を送って確認した。八重瀬にも招待状は届き、甥の婚礼なので、勿論、出席すると言って来た。タブチも何を考えているのかわからないが、今の所は、シタルーに反抗する意思のない所を見せたいようだった。

 三月の半ば、島尻大里(しまじりうふざとぅ)で盛大な婚礼が行なわれ、南部の按司たちが勢揃いした。八年前、浦添の婚礼の時、琉球中の按司が集まった。あの時、東方の按司たちは肩身の狭い思いをしたが、今回はそんな事はなかった。シタルーはすべての按司を対等に扱ってくれたので、皆、楽しい時を過ごす事ができた。

 東方の按司たちが、島尻大里グスクに入ったのは初めてだった。王のいるグスクにふさわしく、高い石垣に囲まれた中は広くて、立派な建物がいくつも建っていた。シタルーの父、汪英紫(おーえーじ)はここに七年間いた。汪英紫が明国の建物を真似して、建て直したのかもしれなかった。

 シタルーの持て成しに満足したのか、早く帰ろうと言い出す者もなく、夜遅くまで祝いの宴は続いた。宴がお開きになると、各自、用意されていた部屋に案内されて、泊めてもらう事となった。

 お客を宿泊させる施設まで、グスク内にあるなんて大したものだった。王ともなるとお客も常にやって来て、中には滞在するお客もいるのだろう。もしかしたら、島添大里グスクの東曲輪(あがりくるわ)にある佐敷ヌルの屋敷が、来客用の屋敷だったのかもしれないとサハチは今になって思い当たった。

 翌日の正午頃、島添大里に帰って、マチルギに華やかな婚礼の様子と、お嫁に行ったマチルーの事を話していると、侍女のナツが、ウニタキが待っていると知らせに来た。

 婚礼の前にウニタキと会って、シタルーの動きを探ってくれと頼んだばかりだった。何かあったのだろうかと城下の『まるずや』に向かった。

 ウニタキは久し振りに三弦(サンシェン)を弾きながら歌を歌っていた。歌を聴きながらサハチは隣りに座った。初めの頃、ウニタキに三弦は似合わないと笑っていたが、なぜか、すっかりとサマになっていた。

「その歌は何の歌だ」

「久高島に古くから伝わる歌らしい。久高島に行こうと思っていたんだが、それどころではなくなった」

「何があったんだ」

「中グスク按司が殺された」

「何だと!」

「昨日、花嫁を送り出して祝いの宴が開かれた。夜遅くまで騒いでいたようだ。その夜、中グスク按司は何者かに殺された。一緒にいた側室も殺されたらしい。朝になって殺されている事に気づいて大騒ぎになったんだ。その宴に参加していたのは越来(ぐいく)按司、北谷(ちゃたん)按司、勝連(かちりん)按司、江洲(いーし)按司、安慶名(あぎなー)按司、伊波(いーふぁ)の若按司、山田按司、宇座(うーじゃ)按司、浦添からは中山王の若按司が来ていた」

「中部の按司たちが勢揃いしたわけだな」

「表向きは中部の団結のために集まったようだが、勝連按司と江洲按司は未だに口を利かんようだ。勝連按司は場の雰囲気を察して、早々と引き上げて行った。勝連按司がいなくなると緊張感も解けて、場も和んだようだ」

「伊波按司は具合でも悪いのか」とサハチは聞いた。

「そんな事はないはずだ。山田按司と安慶名按司が出席するので、若按司に行かせたのだろう」

「兄弟三人が按司とは凄いな」

 伊波の若按司は長男、山田按司は次男、安慶名按司は三男だった。そして、四男のサムは島添大里に客将としている。三男のマイチが安慶名にグスクを築いて、伊波から移ったのは十年近く前の事だった。勝連按司の妹を妻に迎えたマイチは、勝連按司の勧めもあって、伊波と勝連のほぼ中間地点にグスクを築いて安慶名按司を名乗っていた。

「それで、望月党の仕業なのか」

「多分、そうだろうが、どっちの望月党かはわからん」

「仲間はずれにされた腹いせに、勝連按司が命じたんじゃないのか」

「俺もそう思ったんだが、勝連按司の妻は中グスク按司の妹なんだ。義理の兄貴を腹いせのために殺すだろうか」

「それじゃあ、江洲按司の仕業か」

「江洲按司は北谷按司とつながっている。北谷按司は中グスクの若按司とつながっている。中グスク按司を殺す理由が見当たらない」

「勝連按司の義兄だから殺したんじゃないのか。それとも、中グスク按司が若按司の動きに反対したか」

「そうとも考えられるが、先代の勝連按司と中グスク按司は仲が良かったんだ。共に察度の娘を妻に迎えた義兄弟で、中グスク按司はよく、親父を訪ねて勝連に来ていた。親父が亡くなったあとも勝連に来て、何かと兄貴を助けていたようだが、それがうっとうしくなって殺したのかもしれんな」

「中グスク按司に何かを注意されて、それが面白くなくて殺したのか」

「どっちがやったにしろ、このままでは終わらないような気がする。やられた方がやり返すような気がするんだ」

「そうだな‥‥‥ところで、今回の縁談はどっちからの話だったんだ」

「シタルーから中グスクに話が来たらしい。シタルーはやはり、首里のグスクを狙っているようだな。ただ、今すぐというわけではない。首里のグスクは中山王に渡し、周りの状況を整えてからだろう。多分、三年後くらいを目安にしているんじゃないのか」

「三年の計か‥‥‥首里のグスクを簡単に引き渡すとなると、シタルーは間違いなく抜け穴を作っているな」

「石屋に命じて、石垣に何か仕掛けでも作っているかもしれんぞ」

「石垣に仕掛けか‥‥‥首里のグスクを奪い取ったら、すぐにそれを調べなければならんな」

「グスクが広いから探すのも大変だぞ」

「大変だが探さなければ、安心して眠る事もできんよ」

「ファイチが探してくれるだろう」

「そうだな」とサハチは笑った。

「ファイチはどうしている」

「あの女とうまくやっているようだな。去年の末にシャムから船がやって来ただろう。あの女はシャムの商人たちを屋敷に呼んで、うまく取り引きの話をまとめたらしい。多分、ファイチの指示だろう。ファイチは風水師(ふんしーし)として、あの屋敷に出入りしていて、屋敷の改築を勧める振りをしているようだ」

「あの女が南蛮の商品を手に入れたのか」

「そのうち、ファイチから取り引きの話が来るだろう」

「それは助かる。南蛮の商品はヤマトゥでも欲しがっているからな」

「ファイチに付けた三人もかなり明の言葉がしゃべれるようになった。久米村の奴らは、俺たちが言葉がわからないと思って、重要な事でも平気でしゃべっている。あの三人が何か重要な情報を手に入れるかもしれない。新たに三人を追加してファイチのもとに送った」

「そうか」とサハチはうなづいた。

 ウニタキはまた三弦を弾き始めた。

 四月の初め、サハチの長男のサグルーが、佐敷大親(さしきうふや)のマサンルーと一緒にヤマトゥへと旅立って行った。早いもので、サグルーも十六歳になっていた。十六歳といえば、サハチがヤマトゥに行った年齢だった。マチルギはまだ早いんじゃないかと心配したが、サグルーは行きたいと強く言った。サハチは弟のマサンルーにサグルーを託した。

 マサンルーはヤマトゥに行くのを躊躇(ちゅうちょ)していたが、弟のマタルーとクルーからヤマトゥの話を聞くと、やはり、自分も行くべきだと考え直して、妻のキクを説得したのだった。

「大きくなって帰って来いよ」とサハチはサグルーを送り出した。

 その頃、越来按司が亡くなった。病死と公表されたが、何となく怪しかった。越来按司は中山王の武寧(ぶねい)の弟だった。何者かに殺されたなんて恥ずべき事なので、病死にしたのに違いない。ウニタキの調べでも、ヤキチの調べでも、真相はつかめなかった。ただ、北谷按司、中グスク按司、越来按司を継いだ若按司の三人が頻繁に会って、何かをたくらんでいるようだった。

 先代の北谷按司が去年の夏に病死し、先代の中グスク按司が三月に殺され、四月に越来按司が病死した。すべて、望月党の仕業のような気がするが、真相は不明だった。

 梅雨の最中の五月の初め、サハチはウニタキに呼ばれた。雨が小降りになるのを待って、『まるずや』に向かった。

 ウニタキは三弦を弾いていなかった。縁側に座り込んで雨を睨んでいた。

 サハチが隣りに座っても何も言わずに雨を睨んでいたが、急にサハチを見ると、「わからん」とウニタキは言った。

「何がわからんのだ」とサハチは聞いた。

「弟の望月グルーが殺された」

「何だと!」

 サハチはウニタキの顔を見つめた。まったく予想外な事だった。

「江洲のガマ(洞穴)が襲撃されて、グルーの一味は皆殺しにされた。お頭のグルーも殺されたんだ」

「望月サンルーがグルーの本拠地を突き止めたのか」

「そのようだな」

「いつの事だ」

「昨日の大雨の時らしい。大雨が上がったあと、ガマの前でクンチャー(癩病(らいびょう)患者)が死んでいた、俺の配下の者がガマに入って調べたら、死体だらけで、グルーの死体も見つけたんだ」

「望月党の争いも、とうとう、けりが付いたか‥‥‥」

「結局、兄貴のお頭が勝ったようだ」

「すると、グルーと組んでいた江洲按司も殺されるな」

「多分な。しかし、おかしい。あのガマはずっと見張っていたんだが、サンルーの一味が近づいた様子はないという」

「裏切り者が出たのかな」

「わからん」とウニタキはまた雨を睨んだ。

 六月になって、勝連按司が亡くなった。病死と公表された。ヤマトゥ渡りの奇病に罹って、妻も若按司夫婦も亡くなったという。信じられるわけがなかった。望月党の仕業に違いない。若按司の妻は武寧の娘だった。武寧の娘がまた、望月党に殺された。しかし、江洲按司ではなく、勝連按司が殺されるというのはどういう事なのだろう。江洲按司と組んでいたグルーが殺され、サンルーと組んでいた勝連按司が殺された。一体、何が起こって、こうなったのか、さっぱりわからなかった。

 亡くなった勝連按司に代わって、弟の江洲按司が勝連按司に納まり、末っ子の四男のシワカーが江洲按司となった。

 それから半月後、マチルギが四女を産んだ。マチルギの祖母の名前をもらってマカトゥダルと名付けられた。マチルギの祖母は今帰仁按司の妻で、按司と一緒に帕尼芝(はにじ)に殺されたので、マチルギは知らない。マチルギの姉の伊波ヌルが、祖母の名を継いでいたので、同じ名前にしたのだった。

 娘の誕生を喜んでいた時、ウニタキから連絡が入った。

 『まるずや』で三弦を弾いていたウニタキの顔は、久し振りに明るかった。

「久高島に行って来たのか」とサハチが聞くと、ウニタキは嬉しそうな顔をして、「ようやく、すべてが終わったよ」と言った。

 サハチには何が終わったのかわからなかった。

「『望月党』は壊滅した。殺された妻と娘の(かたき)を討ったんだ」

「何だって! 望月サンルーを()ったのか」

「一味は皆殺しにしてやった」

 サハチはウニタキの顔をじっと見つめた。

「何人か怪我をした者を出してしまったが、幸いに戦死した者はいない。ようやく、一つの仕事が終わった」とウニタキは言って、三弦を鳴らした。

「そうか‥‥‥とうとう、敵を討ったか」

「グルーがいなくなったから、以前の隠れ家に戻って来るに違いないと、ずっと見張らせていたんだ。思った通りに奴らは戻って来た。宿敵を倒したので、すっかり安心して祝杯を上げていたよ。俺は『三星党(みちぶしとー)』の者たち全員を集めて総攻撃を仕掛けた。敵は思っていたほどいなかった。二、三十人といった所だ。ほとんど、グルーにやられちまったのだろう。こっちは百人、一人も逃がす事なく全滅させた。お頭のサンルーは浜川の屋敷を襲撃した時、俺に斬りかかって来た奴だった。俺にかなわぬと思い、逃げ出して屋敷に火を掛けたんだ。これでようやく、妻も娘も安らかに眠れるだろう」

「そうか‥‥‥おめでとう。それにしても、無事でよかった。浦添の侍女のナーサには話したのか」

「ああ、喜んでくれたよ」

「そうか。中山王の娘が勝連で病死した事になっているが、中山王は不審に思わなかったのか」

「ナーサは中山王には望月党の事は話さないと言っていた。娘の敵も討ったし、そろそろ、侍女を引退するかとも言っていた」

「ナーサを仲間に加える事はできないのか。ナーサなら浦添グスクの隅から隅まで知っているだろう」

「ナーサに正体をばらすのか」

 サハチは首を振った。

「危険すぎるな。やめておこう」

「いや。そうとも言えない。ナーサは中山王を恨んでいる所もあるんだ。ムトゥから聞いたんだが、ナーサを抱いたのは中山王だけではないんだ。さすがに、親父の察度は惑わされなかったようだが、三人の弟、越来按司、瀬長(しなが)按司、崎山大親(さきやまうふや)がナーサを抱いている。幼い頃に米須(くみし)に行った次男以外の兄弟が皆、ナーサを抱いているんだ。それだけでなく、若按司もナーサを抱いていたんだ。ナーサは自分から誘ったのではないと言っているが、中山王は何年か前に、その事を知って、ナーサが誘ったのに違いないと言って責めたそうだ。特に、若按司まで誘い込むとは絶対に許せんと言ったらしい。中山王の兄弟たちは嫁を迎えるまで、御内原(うーちばる)で女たちに囲まれて育っている。十五、六になれば、侍女たちに手を出すのは当然の事だ。その中でも目立って美しいナーサが選ばれるのも当然の事だな。ナーサとしても女盛りなのに男はいない。子供相手に我慢していたのだろう」

「四人の兄弟と若按司に抱かれたとは凄いな」

「若按司の時はもう四十になっていただろう。母親よりも年上だ。年齢なんか関係なく、魅力的だったのだろう。八重瀬(えーじ)にいた奥間大親が死んだので、ナーサは今、誰にも縛られていない。うまくすれば仲間にできるかもしれない」

「そうか。うまくやってくれ‥‥‥望月ヌルには言ったのか」

「言った。グルーの敵を討ったんだが、兄が二人ともいなくなって叔母も殺され、独りぼっちになってしまった。寂しそうだが、イブキが付いているから大丈夫だろう」

「一仕事を終えたんだ。久高島に行って、のんびりして来いよ」

 ウニタキは笑って、うなづいた。

 勝連の騒動は、それで終わりではなかった。

 七月の初め、勝連按司と側室、若按司の三人が先代の按司と同じように、ヤマトゥ渡りの奇妙な病で亡くなった。『望月党』はすでにいないので、北谷按司の仕業かもしれなかった。若按司の妻は北谷按司の娘で、生き残っていた。そして、新たに勝連按司になったのは、江洲按司だった四男のシワカーで、シワカーの妻は北谷按司の妹だった。北谷按司は義父の江洲按司の敵を討ち、妹婿を勝連按司にしたようだった。

 勝連按司が奇病によって倒れ、次々に代わるので、世間では勝連グスクはマジムン(魔物)に呪われていると噂されていた。





島尻大里グスク



勝連グスク




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