酔雲庵


尚巴志伝

井野酔雲







イハチの縁談




 首里(すい)グスクの北、会同館(かいどうかん)の隣りに宗玄寺(そうげんじ)の普請が始まっていた。サハチはすべてを一徹平郎(いってつへいろう)に任せ、一徹平郎は立派な禅宗寺院を作ってみせると張り切っていた。サハチには仏教の事はよくわからないが、ソウゲンもナンセンもジクー禅師も皆、禅僧だった。

 九月の半ば、島添大里(しましいうふざとぅ)グスクに帰っていたサハチを八重瀬按司(えーじあじ)のタブチが訪ねて来た。驚いた事に米須按司(くみしあじ)玻名(はな)グスク按司が一緒だった。貫禄のある三人が並んでいる姿は威圧感があった。サハチは一階の会所(かいしょ)に案内して、話を聞いた。

「十月の進貢船(しんくんしん)に、この二人も乗せたいんじゃが、どうじゃろうか」とタブチはサハチに聞いた。

「お二人が東方(あがりかた)に寝返ると言う事ですね?」

「そういう事じゃ」とタブチは言って、米須按司と玻名グスク按司を見た。二人とも神妙な顔付きでうなづいた。

「乗せるのは構いませんが、山南王(さんなんおう)が知ったら怒ると思いますよ」

「怒ったとしても攻めて来る事はあるまい」とタブチは言った。

「そなたも知っているとは思うが、シタルー(山南王)は山北王(さんほくおう)と同盟するつもりじゃ。シタルーの三男に山北王の娘が嫁いで来る。その婚礼が十月に決まったようじゃ。婚礼の前に騒ぎは起こすまい」

 サハチは笑った。タブチが山南王と山北王の同盟の事を詳しく知っているとは思ってもいなかった。やはり、タブチもやるべき事はちゃんとやっているようだ。

出帆(しゅっぱん)はその婚礼の前になると思います」とサハチは言った。今までと違って、冬山を通って応天府(おうてんふ)(南京)まで行かなければなりません。厳しい旅になると思いますが、大丈夫ですか」

「噂に聞く雪山じゃな」と米須按司が言った。

「真っ白な雪山というのを一度、見てみたいと思っていたんじゃ、のう」と言って豪快に笑った。

「頼みがあるんじゃが」とタブチがサハチを見て言った。

「婚礼のあと、シタルーの奴がわしらのグスクを攻めた場合なんじゃが、守ってもらえるじゃろうか」

「東方に寝返ったのなら当然です。何としてでも守りますよ」

「それを聞いて安心した。倅たちにはシタルーが攻めて来たら、戦わずに籠城(ろうじょう)しろと言ってある。どうか、シタルーの兵を蹴散らしてくれ」

 サハチは三人の顔を一人づつ見つめてうなづいた。

「それともう一つ頼みがあるんじゃ」とタブチは言った。

「去年亡くなった具志頭按司(ぐしちゃんあじ)の娘で、今年十六になった娘がいるんじゃが、そなたの三男の嫁に迎えてほしいんじゃが、どうじゃろうか」

「イハチの嫁に?」

「今の具志頭按司の叔母に当たる娘なんじゃ。母親は後妻なんじゃが、そなたの奥方様(うなじゃら)の弟子なんじゃよ」

「えっ、マチルギの弟子?」

 タブチはうなづいた。

「具志頭按司に仕えていたサムレーに嫁いだようだ」

「佐敷の娘が具志頭のサムレーに嫁いだのですか」

「娘の父親は具志頭の生まれなんじゃよ。馬天浜に行ってカマンタ(エイ)捕りをすれば稼げると聞いて出掛けて行き、佐敷の娘と一緒になって生まれたのが、その娘じゃ。娘は父親の知り合いのもとへ嫁いだのじゃろう。しかし、わしの親父(先代の山南王、汪英紫)が島尻大里(しまじりうふざとぅ)グスクを攻め取った時の(いくさ)で、その娘の夫は戦死してしまった。その娘は夫に代わって、(よろい)を身に付けて戦に出たんじゃ。その姿が具志頭按司の目に止まって、一年後、後妻に迎えられたというわけじゃ」

「その後妻の娘をイハチの嫁に迎えろというのですか」

「なかなか綺麗な娘じゃよ。ただ、母親に似て武芸が好きなようじゃ。亡くなった具志頭按司に教わって、弓矢の腕は相当なものらしい。勿論、母親から剣術も習っている」

「面白そうな娘ですね」

「婚礼はわしが明国から帰って来てからでいいんじゃが、どうじゃろうのう」

「マチルギの弟子の娘というのも何かの縁でしょう。イハチの嫁に迎えましょう」

「ありがとうございます」とタブチは深く頭を下げた。

 三人が帰って行ったあと、サハチはウニタキを呼んだ。ウニタキは半時(はんとき)(一時間)ほどでやって来た。

「早いな」とサハチが言うと、「旅芸人の小屋にいたんだ」と答えた。

「メイリンと一緒じゃなかったのか」

「メイリンもそろそろ帰る準備で忙しいそうだ」

「もう帰る準備をしているのか」

「あと一月だからな。積み荷の事やら色々とあるのだろう。娘のスーヨンは佐敷ヌルに憧れて、ヌルになると言って、ずっと佐敷ヌルと一緒にいるんだ」

「スーヨンがヌルになるのか」と言って、サハチは笑った。

「ヌルが何だか知らないんだよ。女子(いなぐ)サムレーのお頭がヌルだと思っているんだ」

 サハチは腹を抱えて笑った。

「確かにな。佐敷ヌルを見ていたらそう思うだろう。いつも、女子サムレーの格好でいるしな。すると、佐敷グスクにいるのか」

「そうだよ。ササがいなくてよかった。ササがいたらササと一緒になって何をするかわかりゃしない」

 サハチはさらに笑っていたが、真顔に戻ると、「メイユーも佐敷グスクにいるんだ」と言った。

「聞いたよ。馬天浜のお祭りの準備を手伝っているんだろう」

「ずっと、お祭りの準備さ。側室になった次の日に佐敷ヌルに連れられて与那原(ゆなばる)に行き、与那原のお祭りが終わったら平田に行き、今度は馬天浜だ。そして、馬天浜のお祭りが終わったら、さよならさ。何のために側室になったのかわかりゃしない」

 今度はウニタキが腹を抱えて笑った。

「お祭りを決めたのはお前だろう」

「そうなんだが、まさか、メイユーを取られるとは思ってもいなかった」

「来年は誰かを正式に佐敷ヌルの助手にした方がいいぞ」

「そうだな」とサハチは真剣な顔をしてうなづいた。

「ところで、何かあったのか。笑わせるために呼んだのではあるまい」

 サハチは米須按司と玻名グスク按司が東方に寝返った事を伝え、イハチと具志頭按司の娘の婚約の事を話した。

「タブチ、米須按司、玻名グスク按司の三人がいなくなれば、シタルーは必ず動くぞ」

「やはり、そう思うか」

「山北王との同盟の条件だからな。本気でタブチを倒そうとするだろう。まずは米須按司だな。米須按司には二人の息子がいて、長男の若按司の妻はタブチの娘だ。次男の妻は小禄按司(うるくあじ)の妹だ。シタルーはその二人を争わせて、次男を米須按司にするかもしれんぞ」

「小禄按司の妹か‥‥‥小禄按司は寝返らんかな」

「寝返るかもしれんな。先代が亡くなった時、クグルーが葬儀に出たが、特にいやな思いはしなかったと言っていた。小禄按司はクグルーを叔父として認めてくれたようだ。クグルーの姉は山田按司の妻になっているし、小禄按司の妹は安謝大親(あじゃうふや)の長男に嫁いでいる」

「なに、安謝之子(あじゃぬしぃ)の妻は小禄按司の妹だったのか」

 安謝大親は首里の大役(うふやく)を務め、その長男の安謝之子は今、従者となってヤマトゥに行っていた。

「小禄按司は様子を窺っているのだろう。山南王と山北王が同盟したあと、どうなるのかを見て、先の事を決めるのだろう。それに、宇座按司がどう出るかだな。いつまでも、中途半端な立場ではいられまい」

「息子たちが山南王の使者になっているから、そう簡単には引き上げる事もできまい」

「宇座按司には三人の息子がいて、長男のタキは山南王の正使を務めているが、妻は首里の重臣、中北大親(なかにしうふや)の娘だ。寝返らせて、中山の正使にすればいい。次男のマタルーの妻はシタルーの重臣の娘で、三男のグハチの妻は李仲按司(りーぢょんあじ)の娘だ。この二人は寝返らないだろう」

「そうか。二人の息子が山南に残るか‥‥‥ところで、シタルーは兵を動かすかな」

「前回、タブチの留守に米須按司、玻名グスク按司、具志頭按司、真壁按司(まかびあじ)伊敷按司(いしきあじ)を寝返らせたのは李仲按司だ。今回も李仲按司を使うのだろう。兵を動かすのはそのあとだな。兵を出して負けたらシタルーは終わりだ。みんな、寝返ってしまうだろう」

 サハチはうなづき、「李仲按司か‥‥‥」と呟いた。

「李仲按司の倅はまだ国子監(こくしかん)にいるのか」

「一度、帰って来たようだが、また戻ったようだ」

「そうか。向こうでファイテたちと会うな」

「そうだな」とウニタキはうなづいた。

「李仲按司は敵に回したくない」とサハチは言った。

「敵に回したくはないが、シタルーの軍師のような立場だからな、寝返る事はあるまい。シタルーなんだが、またグスクを築いているようだぞ」

「今度はどこにだ?」

豊見(とぅゆみ)グスクと阿波根(あーぐん)グスクの中間辺りだ。保栄茂(ぶいむ)という地名らしい。ンマムイを見張るためだろう」

「いや、そのグスクはシタルーの三男と山北王の娘の新居かもしれんぞ。ンマムイの奥さんは嫁いで来る娘の叔母だからな。近くに新居を築いているのかもしれん」

「すると、シタルーはンマムイの奥さんを殺すのは諦めたのか」とウニタキはサハチに聞いた。

「諦めてはいないだろう。ンマムイの奥さんが中山王の刺客に殺されれば、山北王は怒って攻めて来るだろう。山北王を動かす、一番手っ取り早い方法だ」

「嫁いで来る娘を殺すという手もあるぞ。そうなると、その娘も守らなくてはならなくなる」

「中山王が山北王の娘を殺す理由はない。ンマムイの奥さんは、同盟に奔走したンマムイを殺し、その巻き添えで殺されたという事にするつもりなんだ」

「そうだったな。しかし、同盟が決まってしまえば、ンマムイを殺す理由もなくなるんじゃないのか」

「そうとは限らん。同盟を結んだ山南王と山北王と戦う前に、裏切り者を始末するという事も考えられる。裏切り者を放っておいたら、中山王としても従っている按司たちに示しがつかんからな」

「そうだな。やはり、ンマムイにははっきりと寝返ってもらった方がいいな」

「ただ、ンマムイの奥さんは微妙な立場になってしまう。今帰仁(なきじん)から帰って来たら、今帰仁の敵になってしまう」

「それはンマムイの奥さんだけじゃないだろう。豊見グスクに嫁いだお前の妹も敵になってしまうし、クルーの嫁さんも、親兄弟と敵になってしまう」

「そうだな。シタルーが敵になったら、また、ハーリーには中山王の龍舟(りゅうぶに)は出せなくなるな」

「代わりに山北王の龍舟が出るだろう」

 サハチは苦笑した。山南王と山北王の同盟が決まれば、島尻大里グスクに山北王の家臣たちが出入りするようになり、龍舟も出すに違いなかった。

「イハチの婚礼の件だが、相手の娘の母親がマチルギの弟子だったそうだが、知っているか」

「亡くなった具志頭按司の奥さんは米須按司の叔母だったんだが、かなり前に亡くなっている。若い娘を後妻に迎えたというのは聞いていたが、それがマチルギの弟子だったとは知らなかった」

「名前はナカーというらしい。マチルギに聞いたらわかるかもしれんな」

「ナカーか‥‥‥知らんな。それで、その娘をイハチの嫁に迎えるのか」

「そのつもりだ。糸数(いちかじ)垣花(かきぬはな)北谷(ちゃたん)から迎えようと思っていたんだが、年の合う娘はいなかったんだ。具志頭按司の娘なら文句はない。それに、母親から剣術を習っているというから、家風に合うしな」

「イハチの奴、まだ、対馬のミツの事を思っているんじゃないのか」

「来なかったんだから仕方がない。何とか納得させるよ」

 首里グスクに行って、マチルギに聞いたら、具志頭に嫁いで行ったナカーの事を覚えていた。『三星党(みちぶしとー)』に入ったムトゥと同期で、二年間、稽古に励んでいたという。その頃、馬天ヌルや佐敷ヌル、ウニタキの妻のチルーも一緒だったから、三人も覚えているだろう。首里の女子サムレーの総隊長を務めているトゥラの一年先輩で、お嫁に行かなければ、総隊長になっていたかもしれないと言った。

 そのナカーの娘をイハチの嫁にもらうつもりだと言ったら、それはいい縁だわとマチルギは喜んでくれた。

 馬天ヌルにも聞いたら、ナカーの事をよく覚えていた。ウタキ巡りの旅をした時、具志頭に行って、ナカーが具志頭按司の後妻になっていたのに驚いたという。

「その時、三歳の可愛い女の子がいたけど、きっと、その子がお嫁さんになるのね。ナカーは美人だったから、その子もきっと美人よ。イハチも気に入るに違いないわ」

 馬天ヌルは喜んだあと、空を見上げて、「台風が来るわよ」と言った。

 サハチも空を見た。確かに台風が来る気配が感じられた。サハチは重臣たちに台風に備えるように命じると、島添大里グスクに帰った。

 佐敷ヌルとメイユーも帰っていて、サスカサと一緒に台風対策をしていた。

「佐敷は大丈夫か」とサハチは佐敷ヌルに聞いた。

「大丈夫よ。サムレーたちを馬天浜に行かせて、対策をさせているわ」

「そうか」とサハチはうなづき、メイユーと一緒にいるメイリンの娘のスーヨンを見た。女子サムレーの格好をしていて、メイユーの弟子になったシビーと仲よく何かを話していた。

 夕方から雨風が強くなった。大きな被害が出なければいいがと心配したが、夜更けには静かになり、朝になると嘘のようにいい天気になった。

 サムレーたちを各地に飛ばして調べさせたが、幸いに被害はなくて済んだ。ウニタキも調べたが、大きな被害を受けた所はなかったようだった。

 サハチたちは知らなかったが、キラマ(慶良間)の島が被害を受けていた。死傷者は出なかったものの、修行者たちの小屋は皆、吹き飛ばされていた。そして、シタルーが密かに兵を育てている粟島(あわじま)(粟国島)も被害を受け、糸満(いちまん)から来ていた船が座礁して、兵を島尻大里に送る事ができなくなっていた。

 マウシの妻のマカマドゥのお腹が大きくなってきて、首里グスクの御内原(うーちばる)に入る事になった。サグルーの妻のマカトゥダルはそんな気配はない。二人の仲はいいのに、なかなか子宝に恵まれないようだ。早く二人の子供が見たかった。

 ヤマトゥ旅から帰って来て、イハチは島添大里のサムレーになっていた。苗代之子(なーしるぬしぃ)(マガーチ)が率いる一番組のサムレーとして、島添大里グスクを守っていた。具志頭按司の娘をお嫁に迎える事に決まったと言うと、一瞬、驚いた顔を見せたが、「わかりました」とうなづいた。

「サグルー兄さんは山田按司の娘をお嫁にもらい、ジルムイ兄さんは勝連按司(かちりんあじ)の娘をお嫁にもらいました。俺もどこかの按司の娘をお嫁にもらうに違いないとずっと思っていました。(にし)の方の按司の娘だと思っていましたが、南部の按司とは意外でした」

「俺も色々と探していたんだが、なかなか見つからなかったんだよ。今回の話は八重瀬按司のタブチが持って来たんだ。なかなかいい娘らしいぞ。婚礼は多分、来年の夏頃になるだろう」

 イハチはうなづいて、持ち場に帰って行った。あまり嬉しそうな顔はしていなかった。対馬のミツの事が忘れられないようだ。

 台風の二日後、シタルーから婚礼の招待状が届いたと島添大里から知らせが入った。調べてみると招待状が来たのは島添大里、八重瀬、米須、具志頭、玻名グスク、阿波根、糸数で、他の東方の按司たちには来ていなかった。島添大里按司と山南王は同盟している。八重瀬按司は山南王の兄、米須按司は山南王の義兄、具志頭按司と阿波根グスクの兼グスク按司は山南王の甥、糸数按司は山南王の義弟だった。玻名グスク按司とは姻戚関係はないが味方だと思っているのだろう。

 サハチが強要したわけではないのに、兼グスク按司以外は皆、出席を断った。同盟を取り持った兼グスク按司のンマムイは婚礼を見届けてから寝返る事になっていた。

 山南王と山北王が同盟して、中山王を攻めるとの噂が流れてきて、首里の城下に住んでいる者たちが騒ぎ始めた。サハチは城下の者たちを北曲輪(にしくるわ)に集めて、詳しい状況を説明した。婚礼の日時と、同盟したからといって、敵がすぐに攻めて来る事はない。敵の動きは常に探っているので危険が迫った時は、グスクの太鼓を鳴らして、すぐに知らせるので心配しないようにと伝えた。城下の者たちも一応、納得して帰って行った。

 ウニタキが調べた所によると、島尻大里では婚礼の準備で大忙しだという。ンマムイも中心になって手伝っているらしい。

「殺されそうになったというのに、そんな事はなかったような顔をしてシタルーを手伝っている。まったく、面白い男だよ、あいつは」とウニタキは言った。

「シタルーは刺客(しかく)たちが全滅した事に気づいているのか」とサハチはウニタキに聞いた。

「あれから二か月が過ぎている。刺客たちから何の連絡がなければおかしいと思うだろう」

「ンマムイにやられたと思っているのかな」

「ンマムイとヤタルー師匠にやられたと思っているのだろう。敵を甘く見たと後悔しているんじゃないのか。ンマムイが襲撃があった事を一言も言わないので、シタルーとしても、それは中山王の仕業だとは言えないようだ」

「ところで、具志頭按司の娘を見てきたか」

 ウニタキは楽しそうに笑った。

「イハチを鍛えた方がいいぞ。イハチよりも強いかもしれない」

「なに、そんなに強いのか」

 ウニタキはうなづいた。

「まず母親だが、サムレー大将のような立場だ。男どもを(あご)で使っている。具志頭グスクはあの母親で持っていると言ってもいいな」

「そうか。マチルギから聞いたが、お嫁に行かなければ女子サムレーの総大将になっていただろうと言っていた」

「チルーもナカーを知っていたよ。強かったと言っていた。具志頭の城下の者たちに聞いたら、戦の時は必ず、奥方様が鎧を着てグスクを守っていたと言っていた。弓矢の腕は奥方様にかなう者はいない。飛んでいる鳥でさえ落としてしまう神業だと自慢していた。娘はそんな母親から弓矢を教わった。勿論、剣術も教わっている。イハチの嫁になったら、マチルギのように娘たちを鍛えるに違いない」

「そうか。そいつは頼もしい。さて、イハチ夫婦の新居はどうするかな。ジルムイは首里のサムレーになったが、イハチは島添大里に置いて、嫁さんに娘たちを鍛えてもらうか」

「それがいいかもしれんな。島添大里には佐敷ヌルもいるし、佐敷ヌルとは気が合うだろう」

「よし、島添大里の東曲輪(あがりくるわ)にイハチの新居を建てよう。タブチが帰って来るまでには完成するだろう」

 十月十日、進貢船の出帆の儀式が浮島で行なわれた。その船は正月に明国に行った船で、今年二度目の船出だった。正使はサングルミー(与座大親)、副使はタブチ(八重瀬按司)、サムレー大将は伊是名親方(いぢぃなうやかた)で、クグルーと馬天浜のシタルーが従者として乗り、ファイチの倅のファイテと浦添按司の倅のジルークが官生(かんしょう)として明国に行く。按司たちの従者は米須按司と玻名グスク按司だけで、あとは首里の重臣たちの倅たちを行かせる事にした。クグルーとシタルーは二度目で、伊是名親方と一緒に行くシラーも二度目だった。

 四日後、馬天浜のお祭りがあり、お芝居は『サミガー大主(うふぬし)その二』が演じられた。

 (うふ)グスク按司の娘を妻に迎えたサミガー大主は鮫皮作りに励み、子供たちにも恵まれる。長男のサグルーはサムレーになるために剣術の修行を始め、海が好きな次男のウミンターはカマンタ捕りに熱中する。長女のマカマドゥはヌルになるための修行を始める。サグルーは大グスク按司の武術師範の美里之子(んざとぅぬしぃ)の娘をお嫁にもらい、苗代大親(なーしるうふや)を名乗って大グスク按司に仕える。島添大里按司が亡くなって家督争いが始まり、その隙に乗じて八重瀬按司が島添大里グスクを奪い取ってしまう。サグルーは大グスク按司に命じられ、佐敷にグスクを築いて佐敷按司になる。グスクが完成して、村人たちと大喜びしている場面でお芝居は終わった。

 サハチが誕生した場面では『ツキシルの石』が光り、合戦の場面では美里之子とサグルーが大活躍していた。メイユーも弟子のシビーと姪のスーヨンと一緒に八重瀬の兵を演じたという。

 馬天浜のお祭りの次の日、三姉妹の船は明国に帰って行った。側室となったメイユーは、楽しかったわと満足そうな顔をしていたが、サハチは少し不満だった。思紹が留守なので忙しくもあったが、もう少し二人だけの時間が欲しかった。

 メイユーの弟子になったシビーは師匠と一緒に明国に行くと言って両親を困らせた。サハチが何とか説得して思いとどまらせたが、来年こそは必ず行くと密かに決心を固めているようだった。シビーは仲よくなったメイリンの娘のスーヨンと別れを惜しんでいた。

「来年、また帰って来るわね」とメイユーは笑って、サハチに手を振り、船に乗り込んだ。

 サハチ、ウニタキ、ファイチの三人は三姉妹の船を見送りながら、あの船に乗り込んで、一緒に明国に行けたらどんなに楽しいだろうと思っていた。

 三姉妹たちが帰った、その翌日には、進貢船があとを追うように出帆して行った。

 ファイチ夫婦と浦添按司夫婦は、官生となって三年間、明国で暮らす息子たちを心配しながらも、立派になって帰って来いよと励ましていた。

 ファイテの妻になったミヨンは、「こっちの事は心配しないで、色々な事を身に付けて来て下さい」と妻らしい事を言っていたが、目には涙がいっぱい溜まっていた。





島添大里グスク



首里グスク




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